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サザエさん化してから大分経つけど、8/20はヘキの誕生日なので。
記念に少々昔話。
以下ちょっと長めの短文。桃文も久々だ。

続き


「これを」
小さな黒い箱を、静かに差し出す。
それでも、膝で握られたままの手に動く気配はない。
「お前のための物だ。ほら、受け取りなさい」
手を取り箱を握らせたところで、ようやく俯いたままだった顔が上がる。
「これを渡せる日が来るとは…あれから10年、早いものだね」
そう言って微笑えば、困惑と緊張が綯い交ぜになった表情が僅かに揺らぐ。

「頭領は継がない。だからそれを受け取る資格はない、か?」
「…え」
「大方そんなところだろうが、生憎これは後継者の証ではないよ」
「そ、そうだけど」
「では何だ、苑家一門に愛想が尽きたか?」
「なっ、違うよ!」
「なら問題なかろう。一人前の苑家の一員として、堂々と受け取りなさい」
「…でも、僕は」
「そもそもお前の場合、成人より前にさっさと龍を彫ってしまったではないか。あれこそまさに後継者の証、今更な話だと思うんだがね」
そこまで言って箱を指し示せば、今度は少しばつの悪そうな顔を見せる。

「…父さん、ごめ」「なあ碧瑤」
やんわりと、謝罪の言葉を遮る。
「後継は強制しない。お前自身が決めることだ。だが…」
予想外の言葉だったのか、驚きを纏った碧珠が瞬く。
「理由ぐらいは、教えてくれるな?」
「…そ、それは」
目の前で、俄かに焦り出す姿。幼い頃から変わらない仕草。
「私にも言えないようなことか?」
「…いや、その」
「いずれ、ここから…いなくなるから、か?」
「…え」
相変わらずのわかりやすさに、思わず苦笑が漏れる。本当に、嘘が付けない子だ。
「やれやれ、私はまた、置いてけぼりを食らうわけか」
「…父さん」
「遠い昔に、何も言わずに急にいなくなってしまった人がいてね。お陰でもう何十年も待ちぼうけだよ」
そう笑ってみせれば、私を映した碧珠が複雑に揺らぐ。
「お前はせめて、いなくなる前に知らせてくれよ?もう待ちぼうけは…御免だからね」
ずっとはいられないこと。いつかは終わってしまうこと。
わかっていたことだ。10年前から、いや、あの日から。

「なあ碧瑤」
返事代わりに見上げてくる姿も。
「“苑碧瑤”となって…幸せだった、か?」
ふわりと綻ぶような笑みも、変わらない。
「何で過去形なのさ。今も昔も、これからも…僕にはもったいないくらいだよ」
照れくさそうに掌の箱を撫でているのは、私の、息子。
「なら、それを受け取ってくれるね?」
箱に刻まれた龍をなぞっていた視線が、変わらない碧珠が、まっすぐに私を捉える。
「ここに“苑碧瑤”が在る証に」
幼い頃そうしたようにくしゃりと頭を撫でれば、くすぐったそうな笑みが返ってくる。
「…ありがとう、父さん」

あの苦さを、あの別れを。
再び味わうとしても余りある今が、ここに在る。


*****
ヘキがヘキパパから成人記念のピアスをもらった日。
20歳の誕生日話、ヘキパパ鷹洸さん視点。以前に他のNPCとの話は書いてたのに、パパさんのは書いてなかったので。
龍紋の黒箱は代々苑家頭領に引き継がれてきた代物という息子は知らない事実。
継ぐ継がない云々より、親子であった証が欲しかったパパ心。
養父と養子だけどそれ以上の繋がりがあるのは、お互い何となく感じてきたこと。逢うべくして逢った、10年前。ヘキパパ、待ちぼうけで独身貫いてきたロマンチストでど根性で因果な人。
ヘキの苑家への執着は、皆に愛されまくって育った賜物。
大事に育てた沢山の幸せも、そっと隠した仄暗い後ろめたさも、大切にしてきた似た者親子。

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